近視予防のカギは「太陽光」? 視力を守るセルフケアのススメ[後編]
2024.12.16

近年、世界的に近視の人口が増加しています。この要因として、勉強や読書、ゲーム機器やパソコンの使用など近くを長時間見続けることが増えたことや屋外活動の減少といったさまざまな生活様式の変化が影響していると言われています。近視は目の病気のリスクを高めるだけではなく、うつや認知症などと関係があること可能性も研究で示されています。こうした状況の中、近視の進行を抑える効果があるとして、太陽光に含まれる「バイオレットライト」が注目されています。
今回は、このバイオレットライトの効果に関する研究に取り組む鳥居専任講師に、近視のメカニズムやリスク、そして近視の進行抑制につながる可能性のある生活習慣についてご解説いただきました。その後編をお届けします。
前編はこちら
紫外線やブルーライトは“悪者”じゃない?

屋外での活動は紫外線への対策も気になりますが、バイオレットを浴びることと、どのようにバランスを取れば良いのでしょうか?
紫外線は浴びすぎると老化や皮膚がんの原因になるため「避けるべきもの」と捉えられがちです。しかし、体内でビタミンDを活性化するために欠かせないなど、健康に良い影響もあるため、適量取り入れることが大切です。
また、眼に入る光を適切に屈折させる水晶体は、非常に合理的にできています。大人になると加齢黄斑変性など目の病気のリスクが高まりますが、大人の水晶体はそのリスク因子となる光を通しにくくし、目の病気のリスクを避けるのに適した状態になります。一方、目の病気にかかるリスクが低い子どもの水晶体は、バイオレットライトのような短波長の光を大人よりもよく通すことがわかっており、小さい頃はサングラスをかけずに積極的にバイオレットライトを取り入れることが望ましいでしょう。したがって、特に子供はまぶしく感じるといったことがなれば、1日2時間の屋外活動が推奨されます。
ただし、紫外線による皮膚がんのリスクには注意が必要です。特に夏は日差しが非常に強いため、外に出る際は必ず日焼け止めを塗り、熱中症対策も忘れずに行っていただきたいと思います。
その他にも、目のケアについて、よくある誤解はありますか?
そうですね、ブルーライトも紫外線と同様、眼精疲労や睡眠の質の低下を引き起こす「悪者」として捉えられている人が多いかもしれません。しかし、ブルーライトはバイオレットライトに次いで近視の進行を抑制する効果があるという研究結果があります。そのため、日中は市販のブルーライトカットメガネなどはできるだけ外すことをお勧めします。
ブルーライトが体に悪影響を及ぼすのは、夜です。ブルーライトは太陽光に含まれ、夜に浴びると体が昼間だと勘違いしてしまいます。スマートフォンを夜遅くまで見続けると寝つきが悪くなり、翌朝すっきり起きられない原因はここにあるのです。
スマートフォンやパソコンを見続けることで近視が進行するとよく聞きますが、その点においてブルーライトはどのように捉えられているのでしょう?
上述のように、ブルーライトには近視の進行を抑制する効果があるとする報告もあり、実際、スマートフォンやパソコンを使用することと近視の進行に関しては否定的な論文も存在します。一方で、近くのものを長時間見続けること自体は近視のリスクを高めるため、やはり、近視が進行すると結論づける論文もあります。このように、現時点では結論が出ていないのが実情です。ただ、客観的な事実として、iPhoneをはじめとするスマートフォンの普及が始まった2009年以降に近視が急増したかというと、そのようなデータは確認されていません。
「近視が完治する世界」を目指して

バイオレットライトに関する研究成果を活用したプロジェクトや、社会実装に向けた取り組みの状況はいかがですか?
実際に社会実装されているものに、J!NS社と共同開発した「バイオレットライト選択透過レンズ(J!NS VIOLET+)」があります。多くの最近メガネはUVカット機能を備えており、バイオレットライトも同時にカットしてしまうのですが、この開発したレンズは、紫外線をカットしながら、バイオレットライトは65%透過します。
また、外出の機会が限られる方向けに、太陽光を短時間浴びたときに近い近視進行抑制効果が期待できるサプリメントを開発し、すでに提供しています。これまでの動物実験の結果から、バイオレットライトを浴びると近視進行を抑制する遺伝子「EGR1」の発現が上昇することがわかっており、さらにクチナシ由来の色素成分である「クロセチン」に極めて高いEGR1の発現促進効果があることを発見しました*2。そこで、ロート製薬と共同でクロセチンのサプリメント「ロート クリアビジョンジュニアEX®」を開発しました。
さらに、「屋外に出れない方向け」のアプローチとして、慶應義塾大学の坪田一男名誉教授が設立された坪田ラボ※と連携し、バイオレットライトを眼鏡のフレームから照射できる「バイオレットライト照射眼鏡」の開発に取り組んでいます。このプロジェクトは現在、検証治験段階にあり、良い結果が待たれます。
※ 坪田ラボ:近視・ドライアイ・老眼・脳疾患の分野で画期的なイノベーションを起こすことを目指し、慶應義塾大学眼科学教室の名誉教授である坪田一男氏が設立した慶應義塾大学医学部発のベンチャー企業。
今後、バイオレットライトや近視の研究は、どのように発展していくと思われますか?
ご紹介したように、現在さまざまなアプローチが開発されていますが、多くの方が最も気になるのは「どれだけ効果があるのか」という点ではないでしょうか?現在、J!NS社をはじめとする民間企業と提携し、さまざまな取り組みを行っていますが、社会実装の鍵は、その効果をいかに示せるかにかかっていると考えています。
伸びすぎた眼軸長を適切な状態に戻す治療法は、まだ確立されていませんが、バイオレットライトを日常的に浴びる習慣や特殊コンタクトレンズの装用などによって眼軸長が短縮した事例も報告され始めています。近視の研究に携わる者として、こうした進展は非常に興味深く、効果が現れた事例の詳細をさらに調べることで、さらなる研究の発展が期待されます。
*1 EBioMedicine. 2017 Feb:15:210-219.
*2 Sci Rep. 2019 Jan 22;9(1):295. (※J.Clin Med. 2019 Aug 7;8(8):1179.では、実臨床の前向き研究においてクロセチンの効果が示されています)。