認知症とは|新薬の課題と共生社会の実現に向けた企業の役割

2023.12.27

生きる全てのものにとって避けられない「老い」、そして、人間の老いの症状の一つに「認知症」があります。認知症は、すでに超高齢社会に突入している日本だけでなく、高齢化に向かう世界の課題であり、認知症と共に生きる社会の構築が不可欠です。今回は、認知症の基本から、現状における課題、企業動向について俯瞰し、企業の役割について考えます。 

執筆
木下 美香

陽だまり編集メンバー
三井物産株式会社 ウェルネス事業本部 戦略企画室 シニアコンサルタント

名古屋大学大学院生命農学研究科博士課程修了。2004年、武田薬品工業株式会社に入社し医薬研究本部にて医薬品の基礎研究から非臨床試験における薬効薬理試験などの研究開発に従事。2017年、株式会社三井物産戦略研究所に入社し、ヘルスケアとマテリアル分野における世界の市場、技術動向の調査・レポート執筆に従事。2021年、三井物産ウェルネス事業本部に出向し、事業コンサルティングおよび案件推進に従事し、2022年から「陽だまり」の立ち上げ、運営に携わる。

監修者
遠藤 英俊 先生

いのくちファミリークリニック院長
聖路加国際大学臨床教授、名城大学特任教授

1987年、名古屋大学医学部医学科大学院修了。医学博士。独立研究開発法人国立長寿医療研究センター長寿医療研修センター長などを経て、2020年から聖路加国際大学臨床教授、名城大学特任教授に就任。現在は2021年に開業した「いのくちファミリークリニック」の院長も務める。認知症、高齢者医療の専門医として多数の著書を出版するのみならず、医療介護保険制度にも精通する。

世界的な課題である認知症

認知症とは?

認知症とは、何らかの原因で「脳の細胞がしんでしまったり、働きが悪くなったためにさまざまな障害が起こり、生活するうえで支障が出ている状態(およそ6ヶ月以上継続)*1」を指します。認知症の原因はさまざまで、患者数の多い順に、アルツハイマー型認知症(67.6%)、脳血管性認知症(19.5%)、レビー小体型認知症(4.3%)*2となりますが、発症メカニズムは未だに不明となっています。
認知症の原因として約7割を占めるアルツハイマー型認知症に関しては、有力な発症メカニズムの仮説として、アミロイドβ(ベータ)仮説があります。アミロイドβは脳内で作られるたんぱく質の一種ですが、これが互いに集まって繊維状のかたまり(凝集体)を形成し、老人斑として細胞外に沈着することで、神経機能に悪影響を及ぼすとされています。

世界で増加する認知症者数とケアコスト

世界的に高齢化が進む中、認知症者数の増加と、それに伴うケアコストの増加が懸念されています。国際アルツハイマー病協会(ADI)によると、今や世界中で3秒に1人が認知症を発症し、世界の認知症者数は、2020年時点の5,500万人超から、2030年に7,800万人に増加することが予測されています*3。また、認知症に関連する世界の年間コストは、2019年の1兆3,000億ドルから、2030年には2倍以上の2兆8,000億ドルに達すると予測されています*3*4。コストのおよそ50%はインフォーマルケアコスト※が占めます。
日本の認知症者数は、2025年には約 700 万人に達するとされています(厚生労働省調べ)*1

※ インフォーマルケアコスト:制度に基づかない、家族・友人・地域住民などによる非公式な支援に関わるコスト。

認知症の一歩手前の状態、MCI (軽度認知障害)とは?

認知症と診断される一歩前の状態にMCI (Mild Cognitive Impairment:軽度認知障害)という状態があります。MCIは、認知機能に関して低下を感じていたり、同じ年代の人と比べて認知機能が低下しているものの、基本的な日常生活には支障がない状態で、Petersenらがアルツハイマー型認知症の前駆状態を意識して提唱した概念*5となります。
MCIの原因はアルツハイマー型認知症以外に、慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症などの脳外科疾患、血管障害、うつ病、てんかんなど多様で*6、神経変性疾患を除く原因によるMCIは早期に対処することで認知障害の改善が可能です。また、MCIと診断された人が認知症になるのは1年で1割程度*5となり、必ず認知症になるわけではなくMCIのレベルにとどまる人や、年相応に正常なレベルの認知機能に回復する人がいることも知られています*7*8。また、近年、MCIから認知症へ移行するリスク因子もわかってきました。 アルツハイマー型認知症のリスク因子の一つに生活習慣病があげられており、MCIの人に対しては生活習慣病に対する指導や治療を行うことで、認知症への進行をある程度抑制することが期待されています*9。また、エビデンスの確立までには至っていませんが、MCIの認知機能に改善効果が報告されている運動や認知刺激*10*11、運動と認知刺激を組み合わせたプログラム*12などの非薬物療法の選択肢を提示することに対する重要性が認識されつつあります。

認知症の発症リスク低下を目指す世界戦略、World Wide Fingerとは?

認知症予防で最もインパクトがあった研究は、フィンランドで行われたFINGER study*13です。この研究では、2009年から2年間、認知症のリスクが高い1,260 名の高齢者を対象に、食事指導・運動指導・認知トレーニング・疾患管理・社会活動など、ライフスタイルに対する多因子介入が行われ、認知症の発症リスクが低下することを世界で初めて示しました。
このFINGER studyを主導したカロリンスカ研究所のMiia Kivipelto(ミーア・キヴィペルト)教授は、認知症の発症リスク低減のための臨床研究の世界的ネットワーク「World-Wide FINGERS(WW- FINGERS)」を2017年に立ち上げました*14。世界25ヵ国以上の研究チームが集まるこのネットワークでは、世界の地理的、文化的、経済的に異なる環境でFINGER studyの事例を適応、最適化を行うとともに、これらの研究データの共有と分析を加速することで、認知症のリスク低減のための実行可能な予防戦略を特定する取り組みとして大きな期待が寄せられています。
WW- FINGERSに参画する国の一つである米国では、FINGER studyの結果を再現する取り組み「U.S.POINTER」が2019年1月に開始され*14*15、FINGER study同様、認知症のリスクが高い高齢者約2,000人を対象にライフスタイルに対する多角的な介入を2年間にわたって行い、最終結果は2025年に発表される見込みです。

新薬の正式承認、期待と課題

米国に次いで、日本でも「レカネマブ」が正式承認

2023年9月25日、厚生労働省は、エーザイと米バイオジェンが共同開発したアルツハイマー型認知症の新規治療薬「レカネマブ」を承認しました。アミロイドβに直接働きかける薬として国内初の承認となりました*16
「レカネマブ」は抗アミロイドβ抗体と呼ばれる抗体医薬品で、アルツハイマー型認知症の原因物質とされるアミロイドβに結合して減らす作用を持ちます。従来の認知症治療薬(アデュカヌマブを除く)が神経活動を活性化させて症状を緩和する薬であるのに対し、「レカネマブ」はアミロイドβを除去することで症状の進行を抑えることができる薬として期待されています。臨床試験は、脳内にアミロイドβの蓄積が確認されたMCIと軽度アルツハイマー型認知症者を対象に行われ、18カ月間のレカネマブ投与(1回/2週間、静脈内投与)によって、認知障害・機能障害の評価テストにおける症状悪化が対照群に比べて27%抑制されることが確認されたほか、主要な評価項目すべてにおいて明確な効果が確認されました*17

レカネマブとアデュカヌマブ

米国では、レカネマブが承認される以前に、レカネマブと同様、エーザイと米バイオジェンによる共同開発品で抗アミロイドβ抗体である「アデュカヌマブ」が2021年6月7日に迅速承認※されています*18。一度は開発の中止が発表されたアデュカヌマブですが、2つの臨床試験で、脳内のアミロイドβの減少が確認され、1つの試験で認知機能低下の抑制効果が確認されたことから米国で迅速承認※されました。日本においてアデュカヌマブは、臨床試験で十分な有効性や安全性が確認できていないと判断され、2021年12月に継続審議となり承認は見送られました。

※ 迅速承認:迅速承認には検証的試験が課せられており、その試験で有効性が示されなければ承認は取り消される可能性がある。

レカネマブとアデュカヌマブは、脳内に蓄積したアミロイドβを減らす作用を持つ点は同じですが、抗体の由来とアミロイドβに対する親和性といった特徴が異なります。
アミロイドβは、段階的に重合し老人斑を形成します。アデュカヌマブが、老人斑に存在する非常に硬く凝集した不溶性のアミロイドβ繊維(フィブリル)に結合するのに対して、レカネマブはフィブリルに加え、フィブリルより凝集段階の手前にある可溶性のアミロイドβ繊維(プロトフィブリル)により強く結合します*19。このような性質の違いが治療効果や副作用の出方に影響を与えていると考えられています。

レカネマブの社会実装に向けた日本における課題

レカネマブの承認以降、薬価算定など、さまざまな議論が始まっていますが、実装に向けていくつかの課題が考えられます。

検査体制の整備

レカネマブの治療対象者は、治療薬の標的となるアミロイドβが脳内に蓄積しているMCIやアルツハイマー型認知症の早期の患者に限られるため、投薬前に脳内にアミロイドβが蓄積していることを確認する必要があります。そのため、脳内アミロイドβの蓄積を可視化するPET(陽電子放射断層撮影)検査、あるいは脳内アミロイドβの蓄積量を測定できる脳脊髄液検査が必須となります。 
PET検査では、検査に必要となるPETトレーサー※の製造や輸送時間の制約、供給体制、検査スタッフや緊急時の対応など、現時点で十分な体制が整っているとはいえず、地域差が残るといわれています。脳脊髄液検査は、腰椎(ようつい)に針を刺して脳脊髄液を採取するため患者の身体的負担が大きい検査となります。
現在、PET検査や脳脊髄液検査と比べ身体的負担が軽微で簡便な微量採血による診断技術の開発が進められています。日本ではこの研究開発に、島津製作所、エーザイなどの企業や、筑波大学、東北大学などの研究機関が取り組んでいます。臨床現場での活用に向けて、有望な結果が積みあがりつつありますが、PET検査や脳脊髄液検査の精度には達しておらず*20*21、米国における抗アミロイドβ抗体医薬の適正使用方針において診断のための使用は推奨されていません(2023年11月時点)*22。現在は、臨床試験における適切な患者の選別や評価項目として用いられることがあり、今後の発展が期待されます。

※ PETトレーサー:陽電子を放出する放射性同位体で標識した薬剤

治療に関わるコスト

レカネマブが承認され、治療に関わるコストも大きな課題となります。実際の治療に当たっては、抗体医薬品であるレカネマブの薬価だけでなく、上述の脳内のアミロイドβの蓄積を確認するための検査費、副作用を管理するための定期的なMRI検査費などのコストがかかります。
①薬価
米国でのレカネマブの薬価は、1人当たり年間2万6,500ドル(約400万円;2023年11月1日時点の為替レートによる)で、日本での薬価は年間約298万円となりました*23。この価格をベースに考えると3割、2割負担で月間それぞれ約7万円、約5万円となります。
②PET検査
アミロイドβ測定用のPET検査や脳脊髄液検査は現在、保険適用となっておらず、PET検査費は全額自己負担の場合、1回20~30万円ほどとなります。これらの検査費用は、今後、レカネマブの薬価の決定とともに保険適用となることが望まれます。
③MRI検査
臨床試験において、レカネマブの投薬による副作用は脳に微小出血が確認されたり(17.3%)、脳にむくみが生じる(12.6%)といった症状が確認されており*17、多くは自覚症状がなかったとのことです。そのため、副作用のコントロールのために定期的なMRI検査(投与前後、5、7、14回目投与前)も必要となります。

治療へのアクセス

実際の治療では、2週間に1回の点滴が必要となるため、レカネマブを用いた治療が可能な病院が通院しやすい場所にあるかどうかということも制約条件となりそうです。皮下投与が可能なレカネマブの研究が進められていることから、将来、インスリンの自己注射のように抗アミロイドβ抗体の自宅での自己注射が可能になれば、通院や点滴などの負担は軽減しますが、副作用管理のためのMRI検査のための通院は必須となると思われます。また、レカネマブの治療対象であるMCIやアルツハイマー型認知症の早期の患者は、症状も軽症なことから見逃されることが多く、早期発見、早期診断も重要な課題となります。北海道大学病院では、レカネマブが必要な患者さんに円滑に届けられる体制を構築するため、2023年10月1日に軽度認知障害センターを設置しています*24

認知症と共に生きる社会の実現に向けて

企業の役割

認知症の人やその家族のニーズは、発症前から疾患の各ステージにおいて、実にさまざまです。発症前は早期発見・早期診断・発症リスク低減など、発症後は疾患管理・生活支援・見守りなどに関連するニーズを満たすサービスが求められます。これらのニーズに応え、生活全体のQuality of Life(QOL)を上げるサービスや社会インフラ・システムを提供する上で、企業が果たせる役割はきわめて多岐にわたります。具体的には、認知機能の低下をできるだけ防ぐ予防、発症リスクを低減するためのライフスタイル提案、認知機能低下の兆候を早めにとらえる早期発見のためのシステムやサービス、認知症の人が使いやすいようにデザインされた日用品、買い物などの生活支援サービス、栄養バランスの整った食事提供サービス、認知症の人が暮らしやすい居住空間、街づくりなどがあげられます。実際、さまざまな企業や組織で、認知症領域における様々なソリューションやサービスの開発や提供を目指した取り組みが進められています。

企業の取り組み事例

① 共創エコシステム
エーザイは、認知症の新薬開発だけでなく、貢献すべき対象を生活者一人ひとりに拡大し、その人らしく生ききることを支えるエコシステムの構築を推進しています。このエコシステムでは、エーザイの強みである認知症領域のサイエンスやデータなどの活用、行政、医療機関、パートナー企業との連携などによるソリューションの開発・提供をはじめ、さまざまな産業との共創による相乗効果がもたらされることが期待されています*25。2023年9月には、完全子会社であるデジタル事業会社Theoria technologiesを設立し、デジタルソリューションの開発やデータ利活用の側面からエコシステム構築の推進を目指しています*26
② 脳の健康増進
NTTドコモと東北大学の大学院歯学科と加齢医学研究所が2025年頃の実用化を目指し、口周りの運動を取り入れた「脳の健康トレーニングAI」を共同開発しています*27。「脳の健康トレーニングAI」は、スマホなどに表示される指示に従って舌を動かしたり、発音したり、口周りの運動を行いながら計算を解いたりするアプリで、スマホなどのカメラ画像でAIが指示通りに頬や舌が動かせているか判定します。口周りを動かしながら頭を使うことで、脳の血流量がより多くなると考えられ、認知機能の維持・増進と口腔機能の向上につながると期待されています。
日立ハイテク、東北大学、三井物産のジョイントベンチャー企業であるNeUは、光トポグラフィを活用した脳活動を可視化する脳計測技術を開発し、この技術を活用した脳トレーニングアプリ「Active Brain Club」を開発、提供などを行っています*28。このアプリでは、可視化された自身の脳血流の変化をユーザー自ら確認し、脳血流を意識的に上げようとしながらゲームを行うことで脳の健康増進効果が期待されています。
③ 日常生活における早期発見
早期発見の分野では、だれでも簡単に脳の健康を確認できる電話やスマホを活用したサービスが開発されています。電話やスマホでいくつかの簡単な質問に答えると、AIが話し方・回答内容・声のトーンなどの特徴量を抽出、解析し、脳の健康状態がその場ですぐにわかり、早期の認知機能低下も検知できるようになっています。
日本テクトシステムズは、スマホを活用した認知機能みまもりAI「ONSEI」を*29、NTTコミュニケーションズでは、「脳の健康チェックダイヤル(より詳細版として「脳の健康チェックplus」)を*30提供しています。いずれも高い精度で軽度の認知機能の低下を検出できるとのことです。
④ 診断支援
慶應義塾大学医学部とデータ解析企業であるFRONTEOは、会話の内容をAIで解析し認知症の可能性を判定する「会話型 認知症診断支援システム」の研究を進めています*31。この診断支援システムは、医療現場での活用が想定されており、5~10分程度の診察における医師と患者の会話データをAIプログラムに読み込ませ、話の内容や言葉の使い方から認知症の可能性を判定、診断を支援します。また、認知症診療の経験や高い専門性が必要とされる従来の認知機能検査より簡便に行うことができることから、認知症の早期発見や認知症検査の標準化、患者・医療従事者の身体的・心理的負担の軽減、遠隔医療などデジタル医療の進展など、認知症診療における効率化への貢献が期待されています。
昭和大学病院とエクサウィザーズ*32、順天堂大学医学研究科と日本IBMらの産学連携チーム*33においても、AIを活用した認知症の診断支援システムの構築や診断基準の策定を目指した取り組みが進められています。
海外では、英国のスタートアップ企業Novoicが、スマホを活用した10分ほどのテストで音声や話し方から早期ステージのアルツハイマー型認知症者を検知可能な「Storyteller」を開発しており、Alzheimer’s Disease Neuroimaging Initiative※のもと、メイヨークリニック、ジョンズホプキンス大学など50以上の医療施設で診断の支援をしています。

※ Alzheimer’s Disease Neuroimaging Initiative:2004年にMichael W. Weiner教授のリーダーシップのもと米国で設立された官民パートナーシップ。アルツハイマー型認知症の早期発見、発症・進行予測、評価のための客観的バイオマーカー(遺伝的、生化学的バイオマーカー、画像診断)を開発するために設計された縦断的多施設共同研究*34

⑤ 周辺症状の緩和ケア
認知症の重症者のQOLを維持改善することが示されている認知症ケアに、パーソンセンタード・ケアがあります。パーソンセンタード・ケアは、認知症の人を一人の人間として尊重し、その人の立場に立って理解し、ケアを行うという考え方ですが、認知症ケアの現場では十分に行うことが難しい場合があります。ベンチャー企業であるAikomiは、認知症の重症者とその家族のQOL向上を目指し、薬に頼らない周辺症状※の緩和のためのパーソンセンタード・ケアをベースにした個別化ケアサービスの開発に取り組んでいます*35。パーソンセンタード・ケアは、ケア提供者の技量や個別対応の限界から効果が左右されがちですが、AIやデジタル技術を活用することで、効果的に認知症者のそれぞれの人生、経験、能力、好みに合わせて、視覚、聴覚、嗅覚に働きかける個別化プログラムを提供しています。

※ 周辺症状:脳機能が低下していく中で残存する神経機能が外界の刺激に対して反応し示されるものと考えられており、幻覚・妄想(物取られ妄想が典型的)・抑うつ・意欲低下などの精神症状と、徘徊・興奮などの行動異常があげられる。周辺症状は、本人を取り巻く環境や人間関係が大きく影響しており、ストレスや不安によるものは周囲の対応次第で改善できることがある。

ケア方法導出に関するAIサービス開発を主要事業とするゲオムは、AIで認知症の人のバイタルデータや環境データ、介護記録などを解析し、認知症の周辺症状の発症を予測すると同時にエビデンスに基づく適切なケア方法を通知するAIサービス「GEOM.ai」を提供しています*36
このAIサービスの開発は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構の「認知症対応型 AI ・IoT システム研究推進事業」で取り組まれ、実証事業で予測率80%以上、再現率90%以上を示しています。また、従来は介護者1人で3人しか対応できなかったところ、1人で4人以上対応できるようになるなど介護負担の軽減効果も確認されています。

認知症になっても安心して暮らせる社会を目指して

世界中で高齢化が進む中、認知症は誰もがなりうる病気です。認知症と共生する社会の実現のためには、企業だけでなく、行政、研究機関などのあらゆる組織、そして、生活者一人ひとりが、認知症と無理なく共生できる理想の社会について関心を持ち、理解を深めることが重要です。また、認知症を取り巻くソリューションやサービスは、日常のあらゆるシーンに及びます。その中で、企業が果たせる役割は大きく、当事者や現場の声に耳を傾け、潜在的なニーズをも満たすソリューション・サービスを開発することが期待されます。このような領域では、1社単独でではなく、業界や業種などの既存の枠を超えて複数の企業や組織が連携・協業し、互いの持つ強みや異なる視点、価値を融合させて取り組んでこそ、さらなる発展とイノベーションを生み出せる可能性が高まると思われます。

今後、日本は、高齢化に加え少子化の影響で、これまでに経験したことがない人口減少に直面します。課題先進国ともいえる日本で、効率化をもたらすAIをはじめとするデジタル技術を最大限に活用し、コストやケアの面において効率的かつ効果的な認知症関連のソリューションやサービスの開発が進み、世界に先駆けて認知症と共生できる社会が構築できれば、それは、世界に誇れる成功モデルとなります。その成功モデルは、高齢化が進む海外の各国の状況に合わせてカスタマイズしながら展開することもできます。このような観点からも、日本での認知症に関わる取り組みの社会的意義は極めて大きいものとなります。

身近な人が、あるいは、自分が認知症になったその時、どのような社会が豊かだといえるでしょうか?私たち一人ひとりが、普段の生活の中で想像を広げてみることから始めてみましょう。

*1 厚生労働省老健局「認知症施策の総合的な推進について(参考資料)」より引用・抜粋(参照 2023-11-02)
*2 厚生労働科学研究費補助金 認知症対策総合研究事業「都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応」平成23年度~平成24年度 総合研究報告書
*3 ADI(Alzheimer's Disease International ): Dementia statistics(参照 2023-11-02)
*4 WHO(World Health Organization): Newsroom/Fact sheets/dementia(参照 2023-11-02)
*5 Neurologia. 2000 Mar;15(3):93-101.
*6 水上勝義、精神神経学雑誌、111(1), 26-30, 2009
*7 Neurology. 2022 May 24;98(21): e2132-e2139.
*8 Age Ageing. 2021 Jan 8;50(1):72-80.
*9 Neurology. 2011 Apr 26;76(17):1485-91.
*10 Arch Gerontol Geriatr. 2012 Jan-Feb;54(1):175-80.
*11 Neurology. 2018 Jan 16;90(3):126-135.
*12 『かかりつけ医のための認知症マニュアル』pp.26-27 社会保険研究所(2015)池田 学/遠藤英俊/瀬戸 裕司(著),
  日本医師会(編纂), 西島 英利(監修)
*13 Lancet. 2015 Jun 6;385(9984):2255-63.
*14 Alzheimers Dement. 2020 Jul;16(7):1078-1094.
*15 ClinicalTrials.gov(参照 2023-11-02)
*16 エーザイwebサイト(参照 2023-11-02)
*17 N Engl J Med. 2023 Jan 5;388(1):9-21.
*18 FDA(Food and Drug Administration): Drugs/News & Events for Human Drugs/From Our Perspective/(参照 2023-11-02)
*19 Neurotherapeutics. 2023 Jan;20(1):195-206.
*20 Nat Aging. 2023 May;3(5):506-519.
*21 Mol Brain. 2019 Mar 28;12(1):26.
*22 J Prev Alzheimers Dis. 2023;10(3):362-377.
*23 エーザイ認知症薬、国内で20日発売 投与前の検査課題,日本経済新聞2023-12-13,日本経済新聞デジタル,(参照2023-12-04)
*24 北海道大学病院 プレスリリース(参照 2023-11-02)
*25 エーザイwebサイト(参照 2023-11-02)
*26 エーザイwebサイト(参照 2023-11-02)
*27 NTTドコモ webサイト トピックス(参照 2023-11-02)
*28 NeU webサイト(参照 2023-11-02)
*29 日本テクトシステムズ webサイト(参照 2023-11-02)
*30 NTTコミュニケーションズ webサイト(参照 2023-11-02)
*31 慶応義塾大学医学部・株式会社FRONTEOプレスリリース(参照2023-11-02)
*32 エクサウィザーズ webサイト(参照 2023-11-02)
*33 順天堂大学ニュース&イベント(参照 2023-11-02)
*34 ADNI(Alzheimer’s Disease Neuroimaging Initiative)/About(参照 2023-11-02)
*35 Aikomi webサイト(参照 2023-11-02)
*36 “AIとIoTにより、認知症の行動・心理症状(BPSD)の予測に成功” PR TIMES(参照 2023-11-02)